職場のセクシュアルハラスメントが注目されるようになって久しい。
2020年6月に改正労働施策総合推進法が施行されて、男女雇用機会均等法のセクシュアルハラスメント防止対策が強化された。
セクハラがどういった行為のことを指すのか、必要な知識と判断基準を学ぶことで被害者/加害者にならない職場つくりを目指す必要がある。
セクハラケーススタディ
新人女性社員をお得意先に連れていくことになった際、新人女性社員に対して
「相手さんは女性好きだから、少し露出が多めの服装にしたほうがよく覚えてもらえるぞ!」と笑いながらアドバイスをした。
後日、社内のコンプライアンス窓口から新人女性社員に対して露出多めの服を着るように言ったかの事実確認がされた。
冗談半分のアドバイスのつもりで言っただけでセクハラをするつもりはなかったが、新人女性社員はセクハラと感じて窓口に相談をしていた。
問題点
上司からこのようなことを言われたら、女性であることを武器にしろと言われたようで不快になる。
コミュニケーションのつもりで言ったのかもしれないが、性的なニュアンスを感じる。
社会人として失礼のない服装のアドバイスであれば問題はないが、不必要な肌の露出を指示するような内容はセクハラにあたる。
ことさらに女性であることをアピールさせようとすることは相手の人格を尊重していない
業務上必要な内容か、相手を不快にさせるような内容でないかという点が考慮されていない
もし会社側が問題として扱わなかったら
セクハラを容認する社内の風土ができあがる
他にも同じようなセクハラをおこなう人が出てくる
セクハラの知識を学ぶ意義
改正労働施策総合推進法が施行されて、男女雇用機会均等法のセクハラ防止も強化されたという背景からも国内および国際的な基準で学び直して時代に沿った知識を身につける必要がある。
従来のセクハラのイメージ
- 男性から女性へ
- 上司から部下へ
実際のセクハラのケース
- 部下から上司へ
- 同僚同士
- 女性から男性へ
- 同性同士
- 取引先や移動先で
- 採用現場で
- 性自認に関するもの
- 性的指向に関するもの
など
このように、セクハラは様々なケースにおいて発生している。
具体的なケースを知識として身につけておけば、加害者や被害者になることを回避できる。
セクハラを知ることで誰もが働きやすい環境を作っていくことが最大の目的。
職場でのセクハラの実態(2020年厚生労働省調査)
過去3年間にセクハラを経験した者の割合
- 女性 12.8%
- 男性 7.9%
10人に1人くらいの割合でセクハラの被害にあっている
過去 3 年間にセクハラに該当すると判断した事案の具体的な内容
- 性的な冗談やからかい 56.5%
- 不必要な身体への接触 49.1%
- 食事やデートへの執拗な誘い 38.1%
やっている本人は気軽な気持ちでも被害にあった人は不快に感じている
心身への影響
- 怒りや不満、不安などを感じた 54.1%
- 仕事に対する意欲が減退した 35.4%
- 職場でのコミュニケーションが減った 27.1%
業務や私生活へも影響がでている
セクハラを受けた後の行動(1度だけ経験した人)
- 何もしなかった 30.7%
- 社内の同僚に相談した 17.9%
- 社内の上司に相談した 16.8%
- 会社を退職した 6.4%
- しばらく会社を休んだ 2.2%
セクハラを受けた後の行動(何度も繰り返し経験した人)
- 何もしなかった 54.7%
- 社内の同僚に相談した 13.7%
- 会社を退職した 7.7%
- しばらく会社を休んだ 6.0%
- 社内の上司に相談した 3.4%
何もしない/何もできない人がターゲットにされている可能性が示唆されている
何度もセクハラを受ける人の離職率は高い
セクハラを受けて何もしなかった理由
- 何をしても解決にならないと思ったから 58.6%
- 何らかの行動をするほどのことではなかったから 31.2%
- 職務上不利益が生じると思ったから 16.4%
何かしらの行動をすることでセクハラが無くなる可能性はセクハラを受けた後の行動の比較(1度だけと何度もの比較)で示唆されている
自らの行動で改善させることができる可能性を認識しておくことは身を助けることにつながる
※セクハラをしない、セクハラを許さない社内の環境整備が大前提ではある
セクハラとは
セクシュアルハラスメント(セクハラ)は「性的嫌がらせ」を意味して、職場におけるセクハラとは
- 本人の意思に反して行われる性的な言動によって
- 働く人が何らかの不利益を被ったり
- 就業環境が害されたりすること
セクハラかどうかの判断基準は、言動をおこなった人の意図にかかわらず、受けた側がどのように受け取ったかが重要になる。
性的な言動の例
- 性的な冗談やからかい
- 肩をもむ、髪を触るなど不必要な身体接触
- 食事やデートなどへの執拗な誘い
- わいせつな画像の配布や掲示
- 性的体験の会話の強要
- 性的な事実関係を執拗に聞く
- 性的な関係の強要
など
性的な言動に該当しない例
- 産休取得に際して出産予定日を確認する
- 制服のサイズを確認する
- 挨拶など慣例としておこなう握手
など
業務上で必要があり、相手に不快感を与えない言動であれば性的な言動に該当しない。
とはいえ、制服のサイズを確認するにあたって、相手の胸を見ながら「もうワンサイズ上じゃないと苦しいんじゃないの?」とかいった冗談をはさむと性的な言動に該当する。
セクハラの2つの型
職場でのセクハラには2つの型がある。
- 対価型セクハラ
- 環境型セクハラ
対価型セクハラ
性的な言動に対して拒否や抵抗した際に不利益を受けるもの
例えば、
- 上司が部下に性的な関係を要求して、部下が断ったためその部下を降格させる
- プロジェクトのリーダーがメンバーの胸やお尻を触って抵抗されたため、抵抗したメンバーをプロジェクトからはずす。
など
会社における権限を利用して相手をコントロールする意思をもって行われるようなセクハラを対価型セクハラという。
環境型セクハラ
性的な言動によって、働く環境が不快なものとなって、働く人が業務を行う上で支障を生じるもの
例えば、
- 事務所内に露出度の高いカレンダーを貼る
- 忘年会などで交際相手との性的関係について話すことを強要する
- 露出度の高い服装を強要する
セクハラに対する意識の低い職場で起こりがちで、働く人が常に不快を感じる環境を作るセクハラを環境型セクハラという。
セクハラによる影響
職場でセクハラが発生すると、被害者はもちろんのこと、加害者や会社にも悪い影響を及ぼす。
セクハラが被害者に与える影響
- セクハラにより心身の健康が害される
- 人間不信に陥り、セクハラをした加害者や同じような属性を持つ人に対して恐怖感を抱くようになったりする
- 仕事への意欲がなくなり、離職することによって経済的な問題にまでつながる
セクハラが加害者に与える影響
- 降格処分や配置転換の処分が下される
- 悪質なセクハラの場合は解雇処分になる場合もある
- 周囲の人間関係の中で信頼を失い、社会的制裁を受ける
- 損害賠償責任を負う
セクハラが会社に与える影響
- 社員の士気が低下し業務の効率が下がる
- 異動希望や退職希望が増加して人材を失う
- 会社の信頼が損なわれ業績が悪化する
- 刑事/民事の両面から法的責任を追及される
最近はSNSの発展によって被害の詳細が世間に広がる側面もあり、セクハラを容認する企業というレッテルは業績の悪化、新たな人材採用の困難化をもたらして経営に深刻な影響を与える可能性が考えられる。
気づかれにくいセクハラ
上司から部下へ、男性から女性へ、女性から男性へといったケースのほか、気づかれにくいケースでのセクハラもある。
- 同性間のセクハラ
- 同僚間のセクハラ
- 性的指向や性自認に関するセクハラ
同性間のセクハラ
同性間のセクハラは当事者同士も気づきにくい面もあり、被害者側も不快に感じながらもこれはセクハラだと声をあげられない傾向がある。
被害者にも加害者にもなることを防止するには、同性間においてもセクハラが発生することを知識として知っておく必要がある。
同性間のセクハラの例
- 交際関係や性的関係をしつこく聞く
- 頻繁に身体に触る
- 無理やり風俗に誘う
- 結婚していないことをからかったりする
- 結婚したことをからかったりする
- 裸になることを強要する
同僚間のセクハラ
セクハラは上司から部下へ行われることがイメージされがちだが、上下関係がない同僚間でもセクハラは発生する。
同僚としてのコミュニケーションのつもりで、相手の行動がエスカレートしやすい傾向がある。
同僚間のセクハラの例
- 頻繁に身体に触る
- 性的経験の話を強要する
- 性的行為を強要する
- 食事やデートにしつこく誘う
性的指向や性自認に関するセクハラ
性的指向とは、その人の恋愛感情や性的関心がどの性別に向いているかのこと。
性自認とは、自分の性をどう認識しているかのこと。
LGBTの人に対して、からかったり偏見に基づいた発言をしたりすることはセクハラにあたる。
性的指向、性自認に関することを本人の了承を得ずに他言することもセクハラに該当する。
性的指向や性自認に関するセクハラの例
- 気持ち悪いなどの差別的発言をする
- 治療を勧めるなど相手の性的指向や性自認を否定する
- 特定の性的指向を強要する
- 性的指向や性自認について公表することを強要する